稲荷神社はナンパのメッカ

平安時代には神社は祈りの場所であると同時に、愛欲の祭りの場でもあったようです。11世紀の「新猿楽記」(しんさるがくき)には、セックスに狂った60才の老女が、20才年下の夫の愛を取り戻すために、「性愛の祭」と聞けばどこへでも出かけていく話があります。神社は「愛」の中心で、祭りに参加すると出会いが得られると信じられていたようです。祭りで盛り上がった興奮で、男女がそのまま性愛に走るということもあったのかもしれません。

性狂いの老女の話

「新猿楽記」に登場する老女は、性愛の祭りに参加するとお供えをして祈願します。その場面は、「男祭りには、『あわびくぼ』を叩いて舞ひ…(中略)…『かつおはぜ』をうせって喜ぶ」とあります。「あわびくぼ」は女性器のことで、「かつおはぜ」は男性器に見立てたかつお節のことです。愛欲祈願のお祭りで、「女性がヴァギナを叩きながら舞い、男根に見立てたかつお節をもてあそんで喜ぶ」という、かなりセクシャルなものです。

平安中期には、このような性愛の祭りがあちらこちらの神社で開催されていたようです。祭りには京都の貴族から庶民まで、さまざまな人々が詰めかけごった返していたことでしょう。道端では大道芸もあったようで、別の書には通りで行われる寸劇の内容が描かれていますが、老人が若い少女を口説く滑稽なやり取りや、最後には口説いて性交する描写があります。こうした性的な芝居が路上で堂々と演じられていたわけですので、かなり開放的なカーニバルだったに違いありません。興奮した男女は、結びつきやすくなったはずでしょう。

神社で女性を口説く

「今昔物語」に登場するすこしコミカルな話があります。仲間と稲荷神社の初午(はつうま)に出かけた男が、着飾ったなまめかしい女性に出会います。サッと隠れてしまった女性に近づき、後から声をかけてナンパするという話です。女性の方は「夫と死別して、誰か頼れる人をさがしに神社に来た」と言います。男は、「あなたのところに通うから住所を教えてくれ」と口説きます。

すると次の瞬間女性は振り返り、男の頬を平手打ちします。男がよくよく女の顔を見ると、それは自分の妻だったというオチです。浮気性の夫の素行調査のために、女はわざと顔が見えないようにして男に近づいたのでした。この話から、神社ではナンパが行われていたこと、女性が良縁を求めて神社に来る習わしがあったことがうかがえます。

平安時代の男女の出会いは、神社のお祭りのときなどに盛んに行われていたようです。神社はナンパのメッカだったのでしょう。

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