おじさんゴロシの才女 島崎靜子

もともとは貧乏作家で、最初の妻冬子をいたぶり続けて死なせてしまった島崎藤村ですが、「破壊」の大ヒットで一躍人気小説家となり、「成金」となります。金が入れば遊びたくなるのが人間です。妻も亡くなり性的な「自由」を手にしたこともあり、次々と色んな女性に手を出してしまいます。そして、そうした経験を自分の小説のネタに活用していきました。「事実は小説より奇なり」といいますが、藤村は実生活を「奇」にしてそれを小説にしたので、「小説は事実と同じく奇なり」となったのです。そんな不届きな男をうまく手なづけて、いい思いをしたのは、二番目の妻靜子です。

自分の姪に手をつけて、小説に書いてしまった!?

藤村という作家は、イマジネーションでものを書く力には欠けていました。自分自身でそれに気づいていた彼は、実生活を淫らにして、それをネタに物語を編むという手法を考え付きます。不埒な生活をすればするほど、面白い小説が書け、非倫理的な生活も小説として昇華すれば許されると考えていたようです。

最初の妻冬子を亡くした後、一人の生活が寂しいと思ったのか、藤村は兄の娘である島崎こま子を自宅の家事手伝いとして住まわせ始めました。うら若き女性と二人きりの生活をしていれば、ムラムラするのは当然です。おそらく藤村には最初から下心があったのでしょう。しま子を凌辱してしまいます。挙句の果てには妊娠させ、中絶させたうえで、自分は知らん顔をしてフランスへ逃げて行ってしまったのです。そうして3年後に戻ってくると、あらためて、また肉体関係をもちました。

男の風上にもおけない人間ですが、さらにひどいことに、それを「新年」という小説として描いてしまったのです。小説で事実を知った、こま子の父親であり藤村の兄である広助は激怒し、以降藤村との関係を絶ちます。

女性関係も複雑な家族関係も整理した、おじさん殺しの天才靜子

加藤静子は津田塾を卒業した才女。女性雑誌「処女地」の編集の手伝いとして、藤村に雇われていました。美しく知的で育ちの良い靜子は、瞬時にして藤村を虜にします。出会ってすぐに藤村は靜子に求婚しますが、靜子は即座に断りました。女性を食い物にするだけでなく、セックスライフも含めて小説に描いてしまうような男と結婚しても良いことがあるはずはありません。おまけに藤村の家族は複雑です。

藤村の父親は座敷牢で死亡、実母は淫乱で不貞をはたらいていました。長兄は詐欺事件で二度も服役経験があり、次兄は女郎からうつされた淋病で廃人。おまけに、藤村と靜子とは24才も年齢が離れています。

靜子は藤村を焦らして、島崎家の人たちとの絶縁を求めました。一方で小説については熱心にバックアップし、内容もある程度コントロールしたのです。そうして、靜子32才、藤村56才のときに結婚しました。既に藤村はEDになってもおかしくない年齢で、女遊びができるほどの元気はなくなっています。現代ならバイアグラを使えばまだ十分活躍できてしまうのでしょうけれど、この時代にはそんな便利な薬はありませんでしたから、妻一筋の性生活となったのです。

そうして完成したのが、藤村の最高傑作「夜明け前」。大ヒットの7年後に藤村は亡くなります。夫の残した財産を手に、その後30年近く、靜子は優雅に暮らしました。明治~昭和の才媛の中でも、もっとも上手に生きた女性と言えるかもしれません。

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